大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和36年(ワ)70号 判決

原告 みすず豆腐株式会社

被告 みすず豆腐労働組合 外四名

主文

被告らは原告に対し、各自金一、一〇四、六八八円およびこれに対する昭和三六年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

事実

第一、申立

一、原告訴訟代理人は、

(一)  被告らは原告に対し各自金一、一〇四、六八八円およびこれに対する昭和三六年八月一日から払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

二、被告ら訴訟代理人は、

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、当事者の地位

(一)  原告(以下会社という。)は、肩書地に本店および工場を置き、凍豆腐の製造ならびに販売を目的とし、昭和三六年五月(本件争議のあつた時)当時従業員一六六名を擁する株式会社である。

(二)  被告みすず豆腐労働組合(以下組合という。)は、昭和三五年五月二二日、会社の従業員をもつて組織され、本件争議当時右従業員中一四四名を組合員とし、執行委員長を代表者と定めた人格なき社団である。

(三)  被告宮沢は昭和二七年二月、被告山崎は昭和二四年四月、被告小林は昭和三一年三月、被告富岡は昭和二九年四月にいずれも会社に雇傭され、以来同社に勤務していたもので、本件争議当時、被告宮沢は右組合の執行委員長、被告山崎、同小林はいずれも副執行委員長、被告富岡は書記長の地位にあつた。

二、争議の発生

組合は、昭和三六年二月二八日から数次にわたる組合機関の討議を経た上、同年三月一一日会社に対し、賃金日額を一人一律金一二〇円増額等労働条件の改善についての要求を掲げて同年三月二一日を第一回とし、以来数回にわたつて会社との間に団体交渉を継続してきたが、同年五月二三日の第八回団交における会社側の回答を不満とし、翌二四日午後一時五五分、会社に対し、同日午後二時から四八時間ストライキを開始する旨通告し、同時刻からストライキに突入し、さらに同月二六日および同月二八日の各午後二時にそれぞれ継続して四八時間および二四時間のストライキを反覆し、同月二八日午後一一時の団交において、妥結するまでこれを継続した。

三、違法争議の実行

1  会社は凍豆腐の製造・販売を業とするもので、本社の敷地建物ならびに工場の配置状況は別紙図面のとおりであるところ、組合は、本件争議が開始されると直ちに組合員ら数十名をもつて会社正門にピケをはり、スクラムの力により正門に対する会社の管理を排し、工場管理上外部の者の会社内立入を阻止しようとする会社の意図を妨害してこれを不能ならしめるとともに、別紙図面表示にかかるボイラー室ならびに工場に設けられた各出入口(ボイラー室四ケ所、製造部九ケ所、冷凍部三ケ所、乾燥部七ケ所、製品部一ケ所)のうち、ボイラー室一ケ所、冷凍部機械室一ケ所、乾燥部一ケ所を除くその余の出入口はすべて内側から電線、ボルト、針金などでしつかりと閉塞して工場への出入を不能にさせた上、閉塞しない右三ケ所の出入口にはすべて組合員ら約数十名が重厚なピケツトラインをはり、組合関係者以外の出入を許さない威力を示して工場を不法に占拠した。会社は突如として開始された本件ストライキによつて、機械上に放置された仕掛品が時間の経過により腐敗にいたることを防ぐため、まず腐敗のはやいものから順次その工程にしたがつて安全な工程まで移転させる残務処理作業をすることとし、同月二四日午後二時二〇分、常務取締役訴外塚田俊之が組合執行委員長被告宮沢に対し、口頭ならびに書面をもつて、会社において仕掛品の残務処理作業をするにつき、これを妨害してはならない旨通告したほか、数回に亘つて、そのような妨害をしないよう警告したが、組合はこれに応ぜず、この状態を争議の終了にいたるまで継続した。そして、その間塚田社長ら非組合員である会社役員らが一一回にわたり、生産工程にある仕掛品の腐敗や品質低下を防ぐために残務処理作業を行うべく、閉塞されない右三ケ所の出入口から工場内に立入ろうとしたが、右ピケ隊は言論による平和的説得の範囲を逸脱して実力でこれを阻止し、その業務遂行を妨害した。

2  ところで、会社の工場はその製造工程にしたがつて製造部、冷凍部、乾燥部、製品部に分別されている。そのうち製造部では大豆の選穀、浸漬、粉砕、煮熱、粕分離、豆乳凝固、静置廃液取り、砕分配型入、型箱圧送の、冷凍部では冷却、凍結、冷蔵の、乾燥部では融解、脱水、第一次乾燥、第二次乾燥、選別、整型の、製品部ではアンモニア加工の各作業を行い、原料から凍豆腐の製品にいたるまでコンベア式の一貫作業を行つている。これらの工程は、いずれも一定の時間・温度をもつて処理しなければ、原料が腐敗し、製品にならないか、あるいは製品の質を著しく害するおそれがあり、この点は会社の製造業務の上で常に細心の注意をもつて処理されていた。

3  しかるに、組合員らが前記のような操業妨害行為を敢えてしたため、仕掛品はすべて腐敗または品質低下をきたし、会社は後に述べるような損害を蒙つた。

ところで、右のような争議行為は、その手段、方法において正当な争議行為としての限界をこえたものであつて、労働組合法第八条の保護を受けえないものであるから、関係責任者はこれにより会社が蒙つた損害を賠償すべきものである。

四、責任の帰属

被告宮沢、同山崎、同小林、同富岡はいずれも前記のように組合役員として、本件争議に入つた場合の戦術の決定に参画し、ストライキ突入と同時に、ボイラー室出入口、工場冷凍部機械室出入口、工場乾燥部出入口各一ケ所を除く他の出入口はすべて内部から閉塞し、右三ケ所の出入口には組合員を配置して重厚なピケツトラインをはり、会社側の者が操業のため工場内へ入ることを実力で阻止することを共謀し、これにもとずき、組合員を指揮し、かつ自らも実行して前項の行為をなしたものである。しからば、被告宮沢ら四名は、民法第七〇九条第七一九条により右行為により会社が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

さらに、労働組合法第一二条は人格なき社団たる労働組合にも準用されるものというべきであるから、組合は、民法第四四条第一項の準用により、その代表者(法人の理事に該当する)たる右被告宮沢ら四名が争議の執行につき会社に加えた損害を賠償すべき義務がある。仮に、人格なき社団たる労働組合に労働組合法第一二条が準用されず、したがつて民法第四四条第一項による賠償責任がないとしても、右被告宮沢ら四名は民法第七一五条にいう被用者に該当するから、組合は同条にいう使用者として右四名が争議の執行につき会社に加えた損害を賠償する義務がある。

以上、被告らはいずれにしろ原告に対し各自連帯して右争議によつて会社に生じた損害を賠償すべきものである。

五、損害の発生

会社は、被告らの右不法行為により、前記凍豆腐の製造工程にあつた仕掛品の腐敗もしくは品質低下を余儀なくされ、別紙被害目録(一)、(二)記載のとおり、合計金一、一〇四、六八八円の損害を蒙つた。すなわち、

1  本件ストライキ終了直後、会社が工場内各現場における仕掛品の腐敗状況を調査したところ、仕掛品のうち腐敗して廃棄する必要のあるものならびに品質は低下したがなお製品価値のあるものの数量は別紙被害目録(一)、(二)の各該当らん記載のとおりであつた。

2  ところで、会社における凍豆腐の製品は、原料たる大豆の性質その他により黄級、青級の良品、折と称する粗品に選別されるが、本件スト当時の製品価格は一切につき平均金五円三五銭であるところ、この製品価格における製造原価の占める割合は約八五%にあたるから、その価格は約四円五五銭となる。また、この製造原価のうち、前記製造工程中、原料から冷蔵庫までの段階にある仕掛品が占める割合は八〇%であるから、一切金三円六三銭七厘となる。つぎに、同じく冷蔵庫以降の段階の工程におけるその割合は、九一%にあたるから、一切金四円一三銭となる。つぎに、スト当時における大豆の仕入価格は、一俵金三、六〇〇円であり、「おから」は製造工場渡しの販売価格が一トンにつき金三、六五〇円であり、またカツト豆腐の販売価格は一貫につき金七三三円であつた。そこで、右により、前記腐敗した仕掛品の損害額を計算すると、別紙被害目録(一)の該当らん記載のとおりになる。

3  会社では品質低下した仕掛品はいずれも争議終了後、加工のうえ売却したところ、その販売価格は別紙被害目録(二)の各該当らん記載のとおりであつた。そこで、通常の場合、製品価格と右販売価格との差をもつて損害額と考えるべきところ、前記製造工程中の前段階、後段階における前記仕掛品の平均価格である一切金三円六三銭七厘、ならびに金四円一三銭を基礎としてその損害額を計算すると、別紙被害目録(二)の各該当らん記載のとおりになる。

六、原告の請求

そこで、原告は被告らに対し、各自右不法行為による損害の賠償として一、一〇四、六八八円およびこれに対する右不法行為後である昭和三六年八月一日から完済に至るまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払を求める。

七、被告らの抗弁について

被告らの第三の二、以下の主張はいずれも争う。

第三、被告らの答弁ならびに主張

一、原告らの請求原因事実の認否

一、(当事者の地位)、二、(争議の発生)の各事実は認める。三、(違法争議の実行)のうち、2は認める。同項1のうち、その主張の頃、会社がその正門を閉鎖しようとしたこと、ボイラー室および工場に設けられた出入口の数が会社主張のとおりであること、主張の会社正門、ボイラー室、冷凍部機械室、乾燥部の各出入口に組合員によるピケツトラインをはつたこと、主張のように塚田社長ら非組合員がその主張の個所から工場に入ろうとしたこと、五月二四日午後二時二〇分、塚田常務から被告宮沢委員長に対し、口頭ならびに書面をもつて主張のような通告をしたことは認めるが、その余の事実は争う。四、(責任の帰属)の主張は争う。五、(損害の発生)の事実は否認する。

二、本件争議の正当性

本件争議行為は、以下のような諸般の事情を考えあわせると、いまだその手段・方法において正当性の限界を逸脱した違法なものということはできない。すなわち、

1  前記のように塚田社長ら非組合員が前後一一回にわたり、乾燥部ならびに冷凍部機械室の各出入口から工場に入ろうとした行為は、会社主張のごとく真に仕掛品の残務処理を目的としたものではなく、本件争議を機会に組合や組合役員の責任を追及するための証拠を収集し、後日これを利用して組合を破壊することを主たる目的としたものである。すなわち、会社は本件争議に先立つてカメラ、8mm撮影機、テープレーコーダーなどを準備し、組合がストに突入するや、会社役員、非組合員が、一一回にわたつてピケに対し、いずれも形式的説得と体当りを試みた。ピケは、前列には男子組合員を配置したが、後列は殆んど女子組合員で占められていたから、会社側に真に操業の意思があれば、これを破ることは不可能ではなかつた。しかしながら、会社側はあらかじめ決められた担当者が写真撮影をすませると、直ちに「引きあげろ」の指令のもとに任意に引きあげて操業の意思を示さなかつた。また、会社に真に操業の意思があれば、警察力の出動を要請したり、裁判所に対し、妨害排除の仮処分を申請すべきであるのに、いずれもこれをしなかつた。してみると、会社は組合からの団交申入を引き延ばしつつ、形式的な証拠収集につとめ、これを利用して組合幹部を企業から放逐し、組合を弱体化させようとしたものというほかない。

2  また、組合は、会社側が取締役、部課長などその利益代表者によつてその固有の業務を行うため工場に入ろうとする場合は、自由な出入を保障する方針であつた。しかるに、会社側は組合員の業務を代替する意図の下に、非組合員や臨時雇入れにかかる訴外みすず自動車株式会社の従業員をして就労させようとした。かかる場合、利益代表者のみを区別して入場させることは事実上不可能であつたから、組合側はこれらの者全部の就労を阻止したのであつて、組合側としては当時やむをえない措置であつたといわなければならない。

3  さらに、組合は、社長、専務、常務らの役員が、他の者を伴なわずに工場に入ろうとする場合、これを阻止した事実はなく、現に同人らは内部の見廻り、冷蔵庫内の温度調べや豆腐の品質検査、モヤの状態の検査など自由にしていたのである。

4  本件争議中、組合は会社に対し、早期の団交を要求しつづけたにも拘らず、会社側はこれを拒否して解決の方途を講じようとせず、組合側のねばりづよい説得により、ようやくこれに応じた。しかし、それはすでに争議開始以来相当の時間を経過した五月二六日午後三時以降であつた。

三、「責任の帰属」の主張に対する反論

1  まず、原告は、本件争議を違法争議行為であるとして、被告宮沢ら四名が組合とは別個独立に不法行為責任を負担すべきものと主張するが、争議行為は、組合集団の行為として発現するもので、すでにこの行為の中に組合員個々の行為は包含されているのであつて、組合役員の行為もこの例外ではなく、組合が組合員をして行わしめた争議行為について、組合役員が不法行為責任を負担する理由はないものというべきである。

2  つぎに、原告は、組合は労働組合法第一二条の準用による民法第四四条第一項の準用により不法行為責任を負うべきものと主張するが、労働組合法第一二条は法人である労働組合についての規定であり、人格なき社団たる労働組合につき民法第四四条を準用する旨の規定を欠いていることから考えると、法人でない労働組合については不法行為責任を負担させるまでもないとするのが法の趣旨と考えるのが相当であり、同条の準用はないと解すべきである。仮に同条の準用があるとしても、争議行為のような集団的事実行為の場合には、集団としての行為があるのみであつて、代表者の行為は集団としての行為に吸収され、とくに存在するものではないから、同条第一項により組合が不法行為責任を負担することはありえない。

3  また、原告は、民法第七一五条を準用して組合に不法行為責任を追及する旨主張するが、同条の使用者・被使用者の関係が契約関係の媒介を必要としないとしても、組合員が組合の被用者であるとは到底言い得ないものであつて、原告の主張は同条の立法趣旨を曲げ、独自の見解にもとずくものというほかはない。

四、権利乱用の主張

会社は、前記二項で述べたように、本件争議が開始されるや、真に残務処理作業をする意思なく、単に組合役員を企業から放逐し、組合を壊滅する目的で工場に入ろうと試みて証拠を収集し、組合の団交要求にも応ずることなく解決を引き延ばして損害を発生させ、スト終了後直ちに組合役員につき刑事告訴をなし、資力なき被告らに損害賠償を仮装して組合弱体化のため本訴を提起したことが明らかであるから、原告の本訴請求は権利乱用として許されないものである。

五、過失相殺の主張

前記のように、会社は、真に残務処理作業をする意思なく、単に組合役員を企業から放逐し、組合を壊滅する目的で、工場に入ろうとしてその証拠を収集し、組合の団交要求にも応ずることなく解決を引き延ばし、警察力の出動を要請したり、裁判所に対し、妨害排除の仮処分を申請するなどの法的手段を講じなかつたのであるから、本件損害の発生および拡大につき、会社にも過失がある。

第四、証拠〈省略〉

理由

第一、原告の請求原因一、二の各事実は当事者間に争いがない。

第二、原告は、本件争議がその手段、方法において正当性の限界を超え、違法であると主張するので、まずその点について判断する。

一、本件争議の経過

前記当事者間に争のない事実に、いずれも成立に争がない甲第三、四号証、同第一七号証の一ないし三、いずれも撮影者、撮影場所、撮影日時が原告の述べるとおりであることが、証人塚田喜幸の証言によつて認められる甲第二号証の一、二、四、ないし一〇、一二ないし一五、四五ないし六七、七九、証人山田秀康(第一回)の証言によつて認められる同号証の六九ないし七五、証人塚田俊之(第一回)の証言によつて認められる同号証の一七ないし四四、八〇ないし一一八、証人高池忠義の証言により成立が認められる同第六号証、証人塚田俊之の証言(第一回)により成立がいずれも認められる同第七号証の一ないし三、証人高池忠義、同塚田俊之(第一、二、三回)、同山田秀康(第一、二、三回)、同田中才吉(第一、二回)、同塚田喜幸、同野村馨三(第一、二回)、同真中芳造(第一、二回)、同山上幸男、同新津文英(第一、二回)、同高橋信良(第一、二、三回)、同五十嵐栄二(第一、二回)、同清水哲の各証言、原告会社代表者塚田豊明の尋問結果(第一、二回)、被告宮沢貞夫、同富岡利二、同山崎邦武各本人尋問の結果(各一、二回)ならびに検証の結果を総合すると、以下の事実が認められる。すなわち、

1  本件スト突入にいたるまでの経緯

イ、組合は、昭和三六年三月一一日会社に対し、賃上げ要求を提出し、県評、中小企労連幹部の指導のもとに、同月二一日以降六回の団体交渉がもたれたが、その間会社との対立点は、組合が基本給を一律金三〇〇〇円増額することを要求したのに対し、会社側は基本給の一定増額にあわせて凍豆腐の生産高に応じて一定の金額を支給するという業績給制度の創設を主張した点にあつた。ところで、その後進展をみず四月を迎えたので、組合は同月頃争議の体勢を整えるべく、組合三役、執行委員全員、職場委員一八名を構成員として闘争委員会を設置し、委員長には被告宮沢、副委員長には訴外轟智、同山田純子(以下これを闘争三役という。)を就任させ、ついで五月八日には組合の臨時集会をひらき、総評弁護団所属の弁護士を講師としてピケの限界など労働争議一般について学習を行つた。また、そのころ、組合三役、闘争三役、ならびに組合財政部長の訴外山上昭雄、統制部長の訴外田中道夫以上八名を構成員とする戦術委員会が結成され、スト中の経済対策および組合の臨時大会を開催してスト突入についての再確認を行うことを決めた。

ロ、そこで、五月一四日組合の臨時大会を開催してスト突入を決議し、ついでその翌日戦術委員会が地区評の訴外五十嵐三郎および中小企労連の訴外五十嵐栄二両名出席の上でひらかれ、その席上正式にストの方法等について協議がなされ、ピケは昭和三五年七月に行われた争議の戦術を踏襲して正門、ボイラー室入口、冷凍機械室入口、乾燥部入口の四個所に配置することとし、その余の工場出入口は組合において内部から締めてあけられないようにする、右ピケの責任者は正門が被告山崎、ボイラー室入口が訴外新津、同関川、冷凍部機械室入口が訴外山上幸男、乾燥部入口が訴外西沢幾雄ならびに訴外山上昭雄とする、ピケの具体的方法として、会社側がきたときはがつちりスクラムを組んで説得し、会社側の操業を阻止する、以上の方針が決定され、さらに、第七回団交を五月一八日申入れる、右団交が進展しなければ、五月二〇日頃ストに突入する、ストは波状的に四八時間継続するとの決定がなされた。そして、数日後に開催された闘争委員会において、右ストの方針が確認され、闘争委員は「春闘配置要員」と題するピケにおける各組合員の配置表を作成して組合員に配布し、右方針を周知徹底させた。

ハ、その後、第七回団交も交渉は進展せず、会社側から次回に最終的回答を提示する旨の申入がなされて終了したので、五月二〇日頃戦術委員会を開き、会社側の回答如何によつては五月二四日午後二時ストに突入する旨決定した。

ニ、ところで、第八回団交は五月二三日に行われたが、会社側は先に自ら提案した業績給制度の採用は留保したが、基本給の一律月金一、〇〇〇円の増額のほか、月金八〇〇円の会社査定による増額をあくまで主張し、組合側は、一律金一、八〇〇円の増額を主張して譲らなかつたため、結局交渉は決裂した。そこで右団交後直ちに戦術委員会が開かれ、予定どおり翌五月二四日午後二時ストに突入することが決定され、かくして右日時から五月二八日午後一一時頃までストが遂行されるにいたつた。

2  右スト突入直後におけるスト現場の状況

イ、会社は肩書地に一万坪近い敷地を有し、その敷地内に正門、事務棟、ボイラー室ならびに工場が別紙図面のとおり配置されている。そのうち工場は、その製造工程にしたがつて、選穀、浸漬、製造、圧送を担当する製造部、冷却、冷凍、冷蔵、機械を担当する冷凍部、融解、脱水、乾燥を担当する乾燥部、アンモニア加工を担当する製品部の四部に分れ、選穀から冷却までの部分の建物と融解から製品までの部分の建物が中庭をはさんで二列に並び、その二列の建物の南端に機械、変電、凍結、冷蔵部分の建物が接続して建物が全体としてコの字型をなし、右ボイラー室に四ケ所、製造部九ケ所、冷凍部三ケ所、乾燥部七ケ所ならびに製品部一ケ所の各出入口がある。

ロ、ところで、組合は被告宮沢委員長および同富岡書記長から五月二四日午後一時五五分、会社常務取締役訴外塚田俊之に対して、同日午後二時からストに突入する旨の通告書を手交し、ストに突入するや、直ちに予め決められていた方針に従い、会社正門に組合員約三〇人をもつてピケツトラインを張り、さらにボイラー室一ケ所、工場出入口のうち冷凍部、機械室入口、乾燥部入口合計三ケ所を除くその余の出入口の扉を全部内部から針金や電線で締めつけて閉塞し、工場ならびにボイラー室は右三ケ所以外から出入することを不可能にした上、右閉塞しないボイラー室出入口には組合員約二〇名、乾燥部、冷凍部機械室の各出入口にはそれぞれ組合員約三〇名をもつて、二重、三重にピケツトラインを張り、右組合員らはいずれも「要求貫徹」と染めぬいた鉢巻をしてスクラムを組み、労働歌を高唱して気勢をあげた。

ハ、なお、組合はスト突入後しばらくたつてから、ボイラー室東側の貯炭場の塀を利用して天幕をはり約二坪の闘争本部を設け、スト期間中組合三役、闘争三役、上部団体の指導者、弁護士などが主として常駐し、争議行為全般を指導した。

3  会社側の対策

イ、会社側は、昭和三五年七月のストに際し、正門を閉鎖しなかつたために外部支援者が大勢会社構内に入りこみ、社内秩序を乱された苦い経験をもつため右スト通告の直前、その気配を察した山田総務部長は正門に赴き、その自動車用通路の扉を閉め、次いで組合のスト通告と同時に、正門全部を閉鎖すべく塚田社長、高池専務、塚田常務らが正門に赴いたが被告山崎ら組合員はスト突入と同時に正門にかけつけ右扉を再び開き、スクラムを組んで扉の閉鎖を妨害した。そのため塚田社長らの正門閉鎖の試みも結局阻止され、正門のかたわらに「従業員以外の立入を禁ず」との立札をたてたのみで、事務所にひきあげざるを得なかつた。

ロ、ところで、工場は前記のようにその製造工程にしたがつて四部に分れ、一貫したコンベア作業を連日昼夜交替制で行つていたから、組合が本件ストに突入した午後二時当時も、工場は全従業員によるフル操業中であり、全製造工程に仕掛品がある状態にあつた。しかも、工場は大豆を原料とする凍豆腐の製造という蛋白質を主成分とする食品工業であるところから、仕掛品をそのまま放置するとまもなく品質低下をはじめ廃品とせざるを得ない特殊事情にあり、とくに前記製造工程中の大豆粉砕から型箱圧送までの仕掛品は、どろどろに粉砕された大豆(ゴー)を煮熱し、粕と分離された豆乳を塩化カルシウムを添加して凝固させ、廃液を取り除いた蛋白質(豆腐の実)を型箱に入れ、圧送機で水分を分離、整型の上生豆腐にする過程にあり、とくに品質低下の速度は高く、直ちにこれを冷却水槽にまで送りこむ必要があつた。さらに、凍結中の生豆腐も冷凍機を運転しないまま約三時間経過すると温度上昇により品質低下をはじめ、ついで融解コンベア上や乾燥機内の豆腐は約二時間ないし約四時間を経過すると品質低下をはじめる状態にあつたから、これらの工程を早急に終了させる必要があつた。スト開始当時、会社側が仕掛品の腐敗や品質低下による損害を避けるために直ちにとりかからなければならない作業は大要以上のとおりであつたが、ストが二四時間以上継続した場合には、浸漬中の大豆や冷却水槽中の生豆腐さらに冷蔵庫中の豆腐についてもその処理や対策が考慮されなければならない状態にあつた。

ハ、そこで、会社側は右のように正門から事務所に戻ると直ぐ、塚田社長、高池専務、塚田常務、山田総務部長ら会社幹部において右スト対策を協議した結果、塚田社長ら役員、非組合員一二名は直ちに仕掛品を安全な工程まで移動させるための残務処理に着手する、会社側の右残務処理作業に対し組合側からの妨害が予想されるので、右残務処理に着手するのに先立ち被告宮沢委員長に対し文書で妨害しないように通告するとともに構内放送を通じて組合員全員に右の趣旨を呼びかけて周知させる。

以上の方針を決めた。

4  会社側の工場立入りとその阻止の実情

イ、会社側は、前記方針にしたがつて、五月二四日午後二時二〇分頃、正門守衛室前で、塚田常務から被告宮沢委員長に対し、現在会社構内に入つている組合員と支援者は同日午後三時までに全員構外に退去すること、組合員はスト中会社の指定する場所以外に立入つてはならないこと、組合のピケツトラインは会社構内に設けないこと、会社は現在の仕掛品を処理するための残務作業を継続することならびに莫大な損害を防止するための冷凍機の運転を継続する必要があるからこれを妨害しないこと、スト期間中の賃金はすべてこれを支給しないこと、以上の内容を有する通告書を手交した上、同日午後二時三〇分頃、塚田社長ら役員、非組合員一三名が閉鎖されない冷凍部機械室出入口に赴き、社長、高池専務、塚田常務らが訴外山上幸男およびピケ中の約二・三〇名の組合員に対し、こもごも仕掛品の残務処理作業をするから工場に立入らせるように説得要請したが、右組合員らは労働歌を合唱したりしてこれに応じようとしなかつた。そこでやむなくピケ隊をかきわけて入場しようと試みたが、組合側は何重にもスクラムを組み押し返したので、もみ合いとなり、結局会社側は工場に立入ることを断念せざるを得なかつた。

ロ、そこで、会社側はひき続き午後二時四〇分頃、同じく閉鎖されない乾燥部出入口に赴き、第一回と同じようにそこでピケ中の組合員約二〇名に対し、残務処理のため工場に立入らせるように説得要請したが、訴外山上昭雄をはじめとして右組合員らがこれに応じて道を開けようとせず、そこでこれをかきわけて入ろうとしたところ、右組合員らがスクラムを組んで押し返したのでその目的を達することができなかつた。

ハ、組合側は、同日午後三時頃会社に対し、前記通告書を返戻したので、同午後三時二〇分頃、右守衛室前で会社は塚田常務から被告宮沢委員長に対し、右のような業務妨害行為を即時中止すること、同日午後三時三〇分以降組合員、外部支援者などの会社施設ならびに構内への立入を禁止する旨の通告書を再び手交し、さらに同日午後三時五五分頃、工場内全部に聴取可能な構内放送をとおして、仕掛品が腐敗したり品質が低下する危険状態にあるから、会社側がこれからその残務処理作業をするが、組合員らはこれを絶対妨害してはならない旨繰返し放送した。そして、同日午後四時頃、右塚田社長ら役員、非組合員一三名は乾燥部出入口に赴き、右作業のため工場に立入らせるように求めたが、組合員らが、約三・四〇名でスクラムを組み労働歌を高唱してこれに応じようとせず、会社側はこれをかきわけて工場に入ろうとしたために、スクラムを組んだままの組合員らともみ合いになり、組合員らがスクラムを組んだ腕をふりまわしたりして押し返したので、結局会社側は工場に立入ることができなかつた。

ニ、同日午後四時三〇分頃、右塚田社長らはひき続いて冷凍部機械室出入口に赴き、組合員に仕掛品の窮状を訴えたが、組合側は約四〇名をもつて労働歌を高唱しながらスクラムを組み、その説得に応じなかつた。そこで、会社側はこれをかきわけて工場に入ろうとしたが、組合側のスクラムのため妨害され、もみ合いとなり、高池専務は訴外山上から左側スレートの壁に強く押しつけられて負傷し、結局入場することができなかつた。

ホ、同日午後五時三〇分頃、高池専務ら役員、非組合員一三名は冷凍部機械室出入口に赴いたが、前回と同様の経緯により、結局四・五〇名の組合員らによるスクラムのため押し返され、工場に立入ることを阻止された。

ヘ、ところで、五月二五日午前二時四〇分頃にいたり、会社は組合のスト突入後すでに一二時間以上にわたり残務処理作業ができないまま経過し、その間に融解コンベア上および粉砕機から圧送機にかけての仕掛品は殆んど腐敗したものと考えられたので今後の残務処理のためには、コンベアなど機械設備を清掃する必要があり、それまでの会社側人員ではその処理が不可能であることおよび前記五回のもみ合いにより会社側がかなり疲れたことなどから、姉妹会社である訴外みすず自動車株式会社の従業員九名の応援を求め、同日午前三時頃、右九名を含む塚田常務ら一八名が、冷凍部機械室出入口に赴き、同じく残務処理作業のため工場に立入らせるように説得をくり返した。しかし、組合員ら約五〇名のピケ隊はこれに応じようとせず、会社側はやむなくこれをかきわけて工場に入ろうとしたが、ピケ隊ともみ合いになり、結局押し返されて阻止されてしまつた。

ト、右塚田常務らは、ひきつづいて同日午前三時二〇分、右作業のため乾燥部出入口から工場に入ろうとしたが、前回と同じく組合員ら約五〇名によつて入場を阻止された。

チ、同日午後一時三〇分頃、山田総務部長以下役員、非組合員らが冷凍部機械室出入口に赴き、同じように工場に立入らせるように説得し、かつピケ隊をかきわけて入場しようと試みたが、組合員ら約三・四〇名のスクラムによつて押し返され断念せざるをえなかつた。

リ、会社は同日夜、被告宮沢執行委員長に対し、内容証明郵便をもつて、以上のような組合側の妨害行為により、会社は残務処理作業ができず、甚大な損害が発生し、同日午後三時現在、冷蔵庫内の温度もマイナス〇・四度まで上昇し、格納してある豆腐が融解寸前の状態にあるから、右運転行為を妨害しないよう、今後工場出入口の扉を内側からボルトや針金で閉鎖しないよう、再三にわたる会社構内の立入禁止通告にも拘らず、これに従わないで外部支援者を入構させて計画的に妨害行為をしているが、かかる行為を中止されたい、すでに発生している損害については会社は損害賠償を請求し、不法行為者に対しては会社諸規則ならびに関係法規にてらして適法な処理をとるからあらかじめ諒承されたい、大要以上の内容をなす再度の通告書を送付した。そして、翌二六日午後六時三〇分頃、田中技術部長は、なお被害を最小限度にくいとめるため、外部から開閉できるところが一個所でもあつたら工場に立入つて右作業をしようと考え、非組合員や前記みすず自動車株式会社の従業員ら約一〇名とともに工場の出入口をひとつひとつ見廻つたけれども徒労に終つた。そこで、やむなく右乾燥部出入口に赴き、ピケ隊に工場に立入らせるように要求したが断られ、ピケを割つて入ろうとしてもみ合つたが、結局組合員らのスクラムによつて押し戻され、入場を阻止されてしまつた。

ヌ、右田中技術部長らは、ひき続き冷凍部機械室入口に赴き、同じように工場に立入ろうとしたが、組合員がスクラムを組んで押し戻したため、これを断念するほかなかつた。

ル、翌二七日午後三時冷蔵庫内の凍豆腐だけでも救うべく、塚田常務以下役員、非組合員、みすず自動車従業員ら一八名は、冷凍部機械室出入口に赴き、被告富岡、同山崎らにとくに冷蔵庫内の豆腐の状態を説明して冷凍機の運転をするから通路をあけ、入場させるように説得したが成功せず、ピケ隊の中にわけ入ろうとしてスクラムを組む約五〇名の組合員らともみ合いになつたが、結局押し返されて入場を断念せざるを得なかつた。

ヲ、もつとも、本件争議中、社長・高池専務・塚田常務・山田総務部長らは、組合から単身でしかも作業をしないことを条件として、それぞれ一回ないし五回工場に立入ることを許されたが、いずれも組合員ら数名が随行したため、工場内を見廻り、冷蔵庫の温度や仕掛品の模様を調査したに止つた。

5  妥結にいたる経過

イ、右期間中、会社と組合の間では、団交は開かれなかつた。組合は五月二五日午後三時ごろ、組合三役、執行委員全員、職場委員らを集めて闘争委員会を開き、会社に対する団交申入の可否について協議したが、いまだ時期尚早との結論に達した。翌二六日早朝、組合は組合三役、訴外西沢、同山上のほか同五十嵐三郎の出席をえて戦術委員会をひらき、本日会社に団交を申入れる、四八時間ストを続けて行う、以上のことを決め、午前八時ごろ文書をもつて山田総務部長にその趣旨を伝え、団交申入を行つた。

ロ、会社側は右組合からの団交申入に対し、同日午後一時から予定されている株主総会の終了後にこれに応じる旨を回答し、同日午後三時三〇分から第九回団交がもたれた。しかしながら、その席上、会社・組合ともに従前の主張を譲らなかつたため、妥結するにいたらなかつた。

ハ、五月二七日午前一一時ころ、第一〇回団交がひらかれ、その席上組合側から妥協案が提出されたが、会社側の受け入れるところとならず、結局翌二八日朝からひらかれた第一一回団交において妥結にいたり、同日夕刻、賃金は一律一月金一、三七五円、会社査定(配分率は実績四〇%、勤続三五%、出勤二〇%、学歴五%)により金四二五円増給する、期末手当は支給しない、家族手当は組合の要求どおり支給する、業績給制度の提案は保留する、以上の協定が成立した。そこで組合は直ちに大会をひらいてこれを承認し、同日午後二時ころ右ストを解除するにいたつた。

6  会社側の損害

会社はスト期間中、前記のとおり組合の阻止によつて仕掛品の残務処理作業ができなかつたことにより、仕掛品が腐敗し、または製品に品質低下をきたし、後に述べるような損害を蒙つた。

以上の事実が認められる。

二、右争議行為の正当性の判断

1  右に認定した事実によれば、会社はスト突入と同時に工場における仕掛品の残務処理作業を計画し、会社役員ならびに非組合員によつてこれを遂行すべく努力したのである。しかして、これは会社側として当然なしうる事柄であつて、組合がこれを阻止すべき理由はない。しかるに、組合はスト突入直後、ボイラー室出入口一ケ所、工場出入口のうち冷凍部機械室出入口および乾燥部出入口合計二ケ所を除くその余の出入口の扉をすべて内部から頑丈に閉塞して右出入口からの出入を不可能にした上、前記三ケ所の出入口には組合員や外部支援者ら約二〇名ないし三〇名をもつてピケを張り、スクラムを組み、労働歌を高唱して気勢をあげ、右ボイラー室や工場を占拠したことは前記認定のとおりである。しかも、右認定事実によれば、会社は組合および組合員に対し、前後三回にわたつて、文書または口頭により組合員および外部支援者の会社構内ならびに施設からの即時退去、組合員の会社指定場所以外の立入禁止、会社の前記残務処理作業および冷凍機運転の妨害禁止を通告し、その趣旨を周知させた上、役員・非組合員らをもつて、前示のように一一回にわたり閉鎖されなかつた前記冷凍部機械室出入口ならびに乾燥部出入口から右作業のために工場内に立入ろうと試みたが、いずれも厳重なスクラムによつて押し戻され、就業を阻止されたのである。かように、工場の出入口を二ケ所を除いて全部内部から閉塞し、会社側が右二ケ所の出入口から残務処理作業のため入場しようとすることを実力をもつて阻止する行為は、会社の業務を不当に妨害するものであつて、右争議行為はその手段方法において正当性の限界を越え、違法な争議行為というほかはない。

2  被告らは、会社が真に仕掛品の残務処理をしようとしたものではなく、本件ストを機会にカメラ等の使用により証拠を収集し、後日組合や役員の責任を追及して組合を破壊することを主たる目的としてピケラインに押しかけたにすぎない、真実操業の意思があつたのなら、組合のピケ線は前列に男子組合員を配置しただけで、後列は殆んど女子組合員で固めていたのであるから、これを突破することができた筈である、と主張する。なるほど前顕証拠からすると、会社がカメラやテープレコーダーを用意してスト現場の状況の記録につとめた形跡が窺え、また会社が警察力の出動を要請したり妨害排除の仮処分申請など法的手段をとらなかつたことは明らかである。そしてこれらの事実と、証人野村馨三(第一回)、同真中芳造(第一回)、同高橋信良(第二回)、同山上幸男の各証言ならびに被告宮沢貞夫本人尋問の結果(第一回)をあわせ考えると、被告ら組合側の者の眼には、右争議中会社側が被告ら主張の意図をもつて行動したかの如く映じたことも窺いえないでもない。しかしながら、カメラ等を使用してスト現場の記録をとり、右妨害行為を除去するため前記法的手段に訴えなかつたことをもつて直ちに会社側に操業の意思がなかつたものということはできないばかりでなく、前掲証人塚田俊之(第一回)、同山田秀康(第三回)の各証言に照らせば、会社側に操業の意思のあつたことは充分これを認めることができる。事実前記認定の事実によれば、会社はその工場において、原料の大豆に熱処理を加えて生豆腐とし、これを凍結の上、乾燥させて凍豆腐の製品とするまでコンベア式の一貫作業を行つているのであつて、本件スト突入当時には全製造工程に仕掛品があり、これらは蛋白質を主成分とすることからそのまま放置すれば腐敗または品質低下をきたし、甚大な損害を受けるおそれがあるのであるから、早急にこれを安全な工程まで移動させる必要があつたことは明らかである。また、会社側がやむを得ずピケをかきわけて工場に入ろうとしたのに対し、ピケ隊がスクラムを組み、実力でこれを阻止したことも前記認定のとおりである。いわゆるピケの正当な範囲として許容されるのは、言論による説得、あるいは団結の示威により相手方の自由意思に訴えて、就業阻止の目的を遂げる限度に限られるものと解すべきであるから、仮によしピケ隊の構成が会社側の強い実力行使によればこれを突破しうる程度のものであつたとしても、会社側が就業の意思を示してあくまで通行を求めていることが明らかである以上、かゝる行動に出なかつたからといつて、ピケの正当性の判断を左右するものではない。被告らの右主張は、かえつて暴力を肯定する結果を招くおそれがあり、到底採用できない。

3  つぎに、被告らは、会社側がその利益代表者のみであれば格別、組合員の業務を代替する意図を有する非組合員や臨時雇入れにかかる訴外みすず自動車株式会社の従業員をも伴つて就労しようとしたものであり、かかる場合、利益代表者のみを区別して入場させる処置をとることは事実上不可能であるから、これらの者全部の就労を阻止することは正当な争議権の行使である旨主張する。しかしながら、会社は争議中といえども操業を中止する義務はないから、職場代置禁止や代替要員雇入禁止の協定があればともかく、そうでない場合は特別の事情がない限り、会社側が非組合員や臨時雇入れの従業員をもつて就業させることを禁ずべき理由はない。そして、本件の場合、工場内に立入ろうとした者は、いずれも仕掛品の腐敗や品質低下を防ぐための残務処理作業に従事しようとしたにすぎないものであつて、とくに組合の争議権を侵害する目的で就労しようとしたことを認めるに足る証拠もない。そうだとすれば、非組合員や臨時雇入れの従業員の就労をピケにより完全に阻止しうる旨の見解を前提とする被告らの主張は採用できない。

4  さらに、被告らは、右争議中、社長、専務、常務らの会社役員は自由に工場内に出入できたから違法な争議行為とならない旨主張する。なる程、先に認定した事実によれば、右争議中、社長・高池専務・塚田常務・山田総務部長らが組合から単身でかつ作業をしないことを条件としてそれぞれ一回ないし五回工場内に立入ることを許され、いずれも組合員ら数名が随行の上、工場内部を見廻り、冷蔵庫の温度や仕掛品の模様を調査したことが認められるが、かかる制限の下に会社役員らが工場への立入を許されたからといつて、これをもつて直ちに前記争議行為の違法性を阻却する事由とはなしがたい。

5  ついで、被告らは、会社が本件争議中、組合からの団交申入を拒否しつづけた不当をいう。なる程、先に認定した事実によれば、右争議中、組合から五月二六日午前八時ごろ、文書で団交の申入がなされるまで団交がひらかれなかつたことは明らかである。しかしながら、証人塚田俊之の証言(第三回)によれば、会社側はピケ中の組合員らからの「団交を開け」との発言は、争議に際しての要求貫徹のための気勢にすぎないと受け取り、それが組合からの正式の団交申入れとは考えなかつたことが窺われ、これもその場の状況から一応やむを得ないとも解せられる。しかも、前記認定の事実からすれば、組合側も右文書による団交申入まではいまだ会社に正式の団交申入は時期尚早と判断してきた経緯も窺われるのであつて、このことを考えあわせると、スト開始後長時間にわたり団交がなされないまま経過したことにつき、会社側のみを責めることはできない。

ほかに、かかる争議方法をとられても忍受しなければならないような会社側の不当な行為があつたことを認めるに足る証拠はない。

6  総括

以上のとおり、組合の本件争議はその手段・方法において正当な争議行為としての限界を逸脱し違法なものというべく、したがつて労働組合法第八条の保護を受けられないものであるから、関係責任者は右違法行為により会社が業務を妨害され、事実上蒙つた損害賠償すべきものである。

第三、責任の帰属

一、本件争議における被告宮沢ら組合役員の行動と役割

1  本件争議にあたり、被告宮沢は組合執行委員長として闘争委員長ならびに戦術委員長の立場にあり、被告山崎、同小林は組合副執行委員長として、また被告富岡は組合書記長として、いずれも闘争委員会ならびに戦術委員会の主要メンバーの立場にあたつた。そして、同人らは、本件争議の戦術として、工場・ボイラー室の各出入口の扉を内部から閉塞し、閉塞しないボイラー室一ケ所、工場冷凍部機械室一ケ所、乾燥部一ケ所の各出入口には組合員を配置してピケを張り、重厚なスクラムを組んで、会社側の立入および操業を実力により完全に阻止する旨を決定し、組合員にこれを周知徹底させ、本件争議に突入するや、闘争本部にあつて争議行為全般の指導を行つたことは前記認定のとおりである。

2  そのうえ、被告宮沢は、前掲同本人尋問の結果(第二回)、証人山田秀康の証言(第一回)によると、右闘争本部において、自らまたは他の者に会社側の動きをマイクで説明させ、組合員を各ピケ個所に移動集中させて工場入場阻止の目的をとげさせ、さらに自らピケ現場を数回視察していることが認められ、被告山崎は、ストがはじまるや、直ちに会社正門のピケ責任者として、会社側の正門阻止を妨害したことは前記認定のとおりであり、さらに右山崎ならびに被告富岡は、同人ら本人尋問の結果(各一、二回)、証人塚田俊之(第一、二回)、同山田秀康(第一回)、同高池忠義、同塚田喜幸、同田中才吉(第一、二回)の各証言によると、前示一一回にわたる工場冷凍部機械室出入口ならびに乾燥部出入口における会社側との衝突に際し、右山崎はその大半にわたり、また富岡は数回右現場に赴き、組合幹部として会社側の入場要請を拒絶し、会社側がピケをかきわけて入場しようとしたのに対し、他のピケ隊員とともに率先してスクラムを組み、実力を行使して結局これを阻止したことが認められる。また、被告小林については、前顕甲第一七号証の一、二、被告宮沢(第一、二、三回)、同山崎(第一、二回)各本人尋問の結果によると、その職場に女子従業員が多いところから、組合結成以来、その代表として組合副執行委員長に選出され、本件争議にあたつては、前記のように戦術委員会ならびに闘争委員会の主要メンバーとして争議計画の決定に参画したほか、右争議中は右闘争本部にあつて、争議全般の指導にあたるとともに、被告宮沢らと会社側の動きをマイクで説明し、組合員を各ピケ個所に移動集中させて工場入場阻止の目的をとげさせたことが認められる。

二、組合の責任

1  まず、組合の性格をみるのに、前記争のない事実に成立に争がない甲第五号証(組合規約)ならびに被告宮沢本人尋問の結果(第一、二回)によると、組合は労働条件の維持改善を目的として、昭和三五年五月二二日、会社従業員をもつて結成され、本件争議当時、従業員一六六名中、一四四名を組合員としていたが、その決議機関として大会、委員会を、また執行機関として執行委員会をもち、また争議にあたつては、決定機関として戦術委員会、執行機関として闘争委員会を設け、執行委員長は組合を代表し、かつ右闘争委員長ならびに戦術委員長を兼ね、組合を統轄するものであるが、いまだ労働組合法第一一条による登記手続がなされていないことが認められ、これらの事実に徴すると、組合は執行委員長を代表者とする法人格なき社団たる労働組合というべきものである。

2  ところで、被告らは、労働組合が法人格を有しない社団である場合には、労働組合法第一二条が法人である労働組合のみにつき民法第四四条を準用していることの反対解釈として、同条の不法行為責任を負担させないとするのが法の趣旨と解すべき旨主張する。しかしながら、労働組合法第一二条が法人たる労働組合につき民法第四四条を準用して、機関による行為について、組合の不法行為責任を肯認した根拠は、その社団的組織と機能に由来するものというべきであるから、法人格なき社団たる労働組合においても、機関により不法行為がなされた場合、労働組合法第一二条および民法第四四条第一項を類推適用して、組合がその責を負うべきものと解するのが相当である。よつて、この点についての被告らの主張は採用できない。

3  また、被告らは、争議行為のような集団的事実行為の場合には、集団としての行為があるのみであつて、機関の行為は集団としての行為に吸収され存在しないから、民法第四四条第一項により組合が不法行為責任を負担することはありえない旨主張する。しかしながら、たしかに、争議行為は、組合大会における組合員の多数決にもとずいて行われる団体的事実行為であるけれども、組合の機関にあたる者は、通常、争議計画を樹立し、これを大会に提案してその決議を得、ついで争議戦術を決定しかつ争議行為を指導し、実行するものであるから、その行為が違法であつた場合には、組合は同規定により、不法行為責任を負うにいたるものと解すべきものであり、この点の被告らの主張も採用できない。

4  そうだとすれば、組合は会社に対し、前記のとおり、被告宮沢ら組合役員が組合機関として企画し、指導し、かつ実行した本件違法争議行為により会社が蒙つた損害を賠償すべきものである。

三、被告宮沢ら組合役員の責任

本件争議における被告宮沢ら組合役員の行動と役割は前記のとおりであるところ、被告らは、組合が独立の社団として違法な争議行為をした場合、組合の機関として行動した組合役員の行為は、右組合の行為に包含されてしまうので、これらに対し個人としての不法行為責任を追及できない旨主張する。しかしながら、違法な争議行為において、組合の機関として行動した組合役員の行為は、一面において社団たる組合の行為であるほかに、同時に個人の行為たる側面を有するものであるから、組合の責任のみならず、機関個人に対しても不法行為責任を問うことができるものと解するのが相当であり、この点とくに争議行為の場合に限り、民法における社団の不法行為理論と別異に解することはできない。本件の場合被告宮沢ら組合役員の所為は前記1認定のとおりであつて、それらはいずれも各個人の行為として民法上も違法と評価しうるものであり、これらの責任を阻却するような特段の事情も認められないのである。従つて、この点に関する被告らの主張も採用できない。

そうだとすれば、被告宮沢ら組合役員は、前記のように本件違法争議行為を企画し、指導し、かつ実行したことにより会社が蒙つた損害を賠償すべきものである。

第四、損害の発生について

会社は、本件違法争議行為により、操業の継続を阻止されたことにより、以下に説示のとおり前記凍豆腐の製造工程にあつた仕掛品の腐敗もしくは品質低下を余儀なくされ、合計金一、一〇四、六八八円の損害を蒙つた。その算定根拠はつぎのとおりである。すなわち、前顕甲第二号証の八六ないし一一八、証人塚田俊之(第一回)、同塚田豊明(第一回)、同山田秀康(第一、二回)、同田中才吉(第一、二回)の各証言を総合すると、

1  本件ストが解除された翌日である五月二九日の就業前に、山田総務部長をはじめ各職場の責任者である主任、班長が各現場における仕掛品の腐敗状况を調査したところ、仕掛品のうち腐敗して廃棄する必要のあるもの、ならびに品質は低下したが、なお製品価値のあるものが発見され、その各数量は別紙被害目録(一)、(二)該当らん記載のとおりであつた。

2  ところで、会社における凍豆腐の製造原価に一般管理費、販売費などを加えた製品価格(各等級の製品価格を加重平均したもの)は、本件スト当時、製品一切につき金五円三五銭であつた。この価格における製造原価の占める比率は従来の経理実績からして約八五%にあたり、その価格は約四円五五銭である。さらに、右価格のうち前記製造工程中、原料から冷蔵庫までの段階にある仕掛品が占める割合は、一般に原料費に全体費用の三五・六%を加えたものであり、右段階における仕掛品の平均価格は右価格の八〇%に当るとみるのが相当であり、一切金三円六三銭七厘であつた。つぎに、前記製造工程中、冷蔵庫以降の段階の半製品の平均価格は右製造原価の九一%にあたる一切金四円一三銭であつた。またスト当時における大豆の仕入価格は一俵金三、六〇〇円であり、「おから」は製造工場渡しの販売価格が一トンにつき金三、六五〇円であり、カツト豆腐の販売価格は一貫につき金七三三円であつた。

3  つぎに、会社は、右品質低下した仕掛品をいずれもそのまま最終工程まで加工のうえ、製品化して販売したところ、その販売価格は別紙被害目録(二)の各該当らん記載のとおりであつた。

以上の事実が認められ、右事実にもとずいて損害額を計算すると、まず前記腐敗した仕掛品の損害額は、別紙被告目録(一)の各該当らん記載のとおり合計金八七二、一五三円となり、つぎに、品質低下した仕掛品は、通常の場合、製品価格と前記販売価格との差をもつて損害額と考えるべきところ、控え目に、前記製造工程のうち前・後各段階における仕掛品の平均価格たる一切金三円六三銭七厘ならびに金四円一三銭を基礎として計算すると、別紙被害目録(二)の各該当らん記載のとおり合計金二三二、五三五円となり、結局総額金一、一〇四、六八八円の損害となる。

第五、その他の被告らの主張に対する判断

一、権利乱用の主張について、

被告らは、本件争議の経緯からすると、会社はもつぱら組合を弱体化させ、破壊する意図のもとに本件損害賠償の請求をなしていることが明らかであるから、権利の乱用として許されない旨主張する。たしかに、違法な争議行為により会社に事業上の損害を生じさせた場合であつても、会社が組合または組合員から真にその損害の填補を求める目的はなく、もつぱら組合を弱体化させ、破壊する手段として利用する意図のもとに損害賠償請求をなしたことが明らかである場合には、その請求は損害の填補という不法行為制度の本来の目的からはずれ、他方労働者の生活をおびやかし、ひいては正当な組合活動をも阻害する危険が予想されるから、権利乱用として許されないものと解するのが相当である。

ところで、本件争議の場合についてこれをみるのに、前顕証人塚田俊之の証言、被告宮沢、同山崎、同富岡の各本人尋問の結果によれば組合は昭和三五年七月に組合結成後はじめての争議を行い、その形態は本件争議と類似していることが認められるが、この両者を比較してみると、本件においては会社側がカメラやテープレコーダーなどを用意してスト現場の情況の記録につとめ、再三にわたり警告を発するなど、前回よりはるかに強硬な態度をもつて臨んでいたことが右証拠から窺われるのである。しかして、これら争議の過程における会社側の言動はこれをもつて直ちに被告らの主張するように、後日被告らの責任を追及して組合を弱体化させ、破壊する目的からなされたものとは認めがたいことは前記認定のとおりであるうえ、右前回の争議において、組合が本件争議行為と同一の戦術をとりかつ会社に対し損害を生じさせながら、その妥結にあたつては、会社は組合に対する一切の責任追及をしない旨の約定をなしたにも拘らず、本件争議の妥結の際には、かかる約定を拒否して本件請求に及んだことは前顕証拠上明らかである。しかしながら、右証拠からは前回の争議にあつては、組合はその中途において会社側の要請により工場冷凍機の運転を再開したため、損害が比較的軽微であつたことが認められ、このことから考えると右一事をもつて直ちに会社には損害填補以外の意図のみしかないと推測することはできず、他にそのような被告主張の事実を認めるに足る証拠もない。したがつて被告らの権利乱用の主張は採用できない。

二、過失相殺の主張について、

被告らは、本件損害の発生および拡大について、被害者たる会社にも過失があつたものとして、過失相殺を主張する。しかしながら、本件争議の過程において、会社側が工場出入口における組合のピケツトラインに押しかけた行為をもつて、真に操業の意思なく、後日被告らの責任を追及して組合を破壊するための証拠を収集したにすぎないものとは認めがたいこと、およびスト開始後長時間にわたり団交がなされないまま経過したことにつき会社側にとくに不当があつたものとは認めがたいことは前記説示のとおりである。また、会社が警察力の出動を要請したり、妨害排除の仮処分申請など法的手段をとらなかつたことは明らかであるが、本件争議は四日間余の比較的短期間に行われたものであつて、法的手段など防禦方法を講ずる十分の余裕があつたものとは認めがたいうえ、争議の場は、独特の雰囲気にあるから、警察力の発動や仮処分の執行などの措置をとることが、かえつて争議の態様を複雑化させるおそれもあり、必ずしも直ちに損害の発生・拡大を防ぐための有効適切な手段ともいいがたいから、それら被告らの主張事実はいずれも本件損害の発生・拡大について、被害者たる会社に社会通念上非難すべき不注意または怠慢があつたものとする資料とはなし難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。しからば、被告らの過失相殺の主張も採用できない。

第六、結論

以上のとおり、被告らは本件争議による損害賠償として、会社に対し、各自連帯して金一、一〇四、六八八円ならびに不法行為の日の後である昭和三六年八月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。よつて、その義務の履行を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九三条第一項、第八九条を適用してこれを被告らの連帯負担とすることとし、なお、仮執行の宣言の申立については、本件の事案上これを附することを不相当と認め、これを附さないこととする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中隆 千種秀夫 伊藤博)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例